公益法人の会計・税務に関わる中で、必ずといっていいほど出てくるのが「収支相償(しゅうしそうしょう)」という言葉です。名前だけ見ると難しそうですが、考え方自体はシンプルです。この記事では、収支相償の基本的な意味から、判定方法、そして令和6年の会計基準改正でどう変わったのかまで、初めての方にもわかりやすく解説します。
収支相償とは
収支相償とは、公益法人が行う公益目的事業について、その事業から得られる収益が、事業を実施するために必要な適正な費用を超えてはならない、という原則です。簡単にいうと「公益目的事業で儲けすぎてはいけない」というルールです。
公益法人は、株式会社のように利益を追求する組織ではなく、公益目的の実現そのものを目的とした組織です。そのため、公益目的事業で得た収入は、できる限りその事業自体のために使い切ることが求められます。これが収支相償という考え方の根底にあります。
令和6年基準による見直し:単年度から中期的な収支均衡へ
これまでの収支相償は、原則として単年度ごとに収支を均衡させる必要がありました。しかし、事業年度によっては、寄付金が予想以上に集まったり、逆に急な支出が発生したりと、単年度できっちり収支を合わせるのが難しい場面もあります。
令和6年の会計基準改正では、この単年度主義が見直され、「中期的な収支均衡」という考え方に変わりました。具体的には、過去の赤字を複数年にわたって通算し、5年程度の中期的な視点で収支のバランスが取れていればよいとされます。単年度で多少の黒字が出たとしても、それが翌年度以降の赤字で解消される見込みであれば問題ない、という柔軟な運用が可能になったのが大きな変化です。
収支相償の判定方法:二段階のチェック
収支相償は、実務上「第一段階」と「第二段階」という2つのステップで判定します。複数の公益目的事業を行っている法人の場合、まず個々の事業ごとにチェックし、その後、法人全体で改めてチェックする、という二段構えになっているためです。
第一段階:事業単位での判定
公益目的事業が複数ある場合(公1、公2、公3…といった形で事業ごとに区分されます)、まずそれぞれの事業ごとに、経常収益が経常費用を超えていないかを確認します。
第二段階:法人全体での判定
第一段階をクリアした各事業の収支に加えて、特定の事業に直接紐づかない収益・費用、特定費用準備資金の積立や取崩しの額、収益事業を行っている場合はその利益の50%相当額などを加算し、公益目的事業全体で収支が均衡しているかを確認します。行っている公益目的事業が1つしかない法人の場合は、第一段階を省略して第二段階から判定を始めます。
具体例で理解する
たとえば、ある公益目的事業(公1)の1年間の実績が、経常収益1,000万円、経常費用1,200万円だったとします。この場合、収益が費用を200万円下回っているため、この事業単体では収支相償の考え方上、問題ありません。
逆に、経常収益が経常費用を上回り黒字になった場合は、その黒字分をどう扱うかが論点になります。翌年度以降に使う予定の支出(たとえば数年後に予定している事業拡大や設備更新)のための資金として「特定費用準備資金」や「資産取得資金」に積み立てることで、その積立額を費用として計上でき、結果的に収支のバランスを取ることができます。単に黒字を法人内部に貯め込むのではなく、将来の公益目的事業のために使う計画があることを明確にしておく、というのがポイントです。
黒字が出そうな場合の対応策
判定の結果、収支に黒字が生じそうな場合でも、慌てて事業を縮小する必要はありません。よく使われる対応策として、将来の公益目的事業の拡大や、資産の取得・更新に備えて資金を積み立てる「特定費用準備資金」「資産取得資金」といった仕組みがあります。これらの資金への積立は費用として扱われるため、結果的に収支のバランスを取ることができます。どの資金をどの程度積み立てるかは法人の事業計画によって異なるため、顧問税理士や公認会計士と相談しながら検討するのが安心です。
実務上、いつどうやってチェックするのか
収支相償の判定は、決算の締め作業と同時にまとめて行うものではなく、日々の会計処理の積み重ねの結果として確認するものです。毎事業年度終了後には、所轄庁に提出する事業報告等(財産目録、収支相償を確認するための別表など)の中で、公益目的事業ごとの経常収益・経常費用を整理して示す必要があります。
ここで実務上つまずきやすいのが、事業ごとの収益・費用を正しく区分して記帳できているかという点です。管理費や共通経費をどの事業にどう配賦するかによって、事業ごとの収支は変わってきます。日頃の記帳の段階で、公益目的事業・収益事業・管理費などの区分をきちんと意識しておくと、決算時になって慌てて数字を組み替える、といった事態を避けやすくなります。会計ソフトを選ぶ際も、こうした区分経理や事業別の収支管理がしやすいかどうかは、公益法人にとって重要なチェックポイントの一つです。
よくある質問
Q. 収支相償を満たせないと、どうなりますか?
A. 収支相償を満たせない状態が続くと、公益認定の取消しにつながる可能性があります。ただし、単年度で一時的に黒字が出ただけで直ちに問題になるわけではなく、特定費用準備資金への積立や、翌年度以降の収支計画によって是正できるケースも多くあります。心配な場合は早めに顧問税理士や所轄の公益認定等委員会に相談しましょう。
Q. 収益事業(公益目的事業以外の事業)も収支相償の対象になりますか?
A. 収支相償はあくまで公益目的事業が対象です。ただし、収益事業等を行っている場合は、その利益の50%相当額を公益目的事業の財源として繰り入れることが求められており、この繰入額は第二段階の判定に加味されます。収益事業自体の収支そのものに、収支相償の原則が直接適用されるわけではありません。
まとめ
収支相償は「公益目的事業で儲けすぎてはいけない」というシンプルな原則ですが、実際の判定は事業単位・法人全体という二段階のプロセスを踏むため、慣れないうちは複雑に感じるかもしれません。令和6年基準では単年度主義から中期的な収支均衡へと見直され、以前より柔軟な運用が可能になっています。とはいえ考え方の根本は変わっていないため、日々の会計処理の中で、公益目的事業の収支バランスを意識しておくことが引き続き大切です。